山と海に囲まれ、穏やかな時間が流れる静岡県下田市。この地には、温泉好きに古くから親しまれている「千人風呂 金谷旅館」があります。
創業は1867年。多くの人が目当てにするのが、日本一の総檜(ヒノキ)風呂「千人風呂」です。広々とした大浴場は、湯船から天井まで木のぬくもりに包まれています。さらに、温泉は源泉かけ流し。まるで時代をさかのぼったかのような雰囲気の中で、時間を忘れるような湯浴みを堪能できます。
アクセス
のどかな里山に囲まれた木造旅館へ
東京方面から「金谷旅館」へ向かうには、まず東海道新幹線で熱海駅へ。そこで伊豆急行線に乗り換え、蓮台寺駅で下車します。駅からは徒歩約3分です。
伊豆急行線は海沿いを走るため、車窓からは美しい海や伊豆大島の景色が広がります。景色を眺めているうちに、あっという間に目的地に着くでしょう。
山あいののどかな風景の中を歩いていくと、「金谷旅館」と書かれた看板が見えてきます。昭和4(1929)年に建てられた本館は、数寄屋造りの木造建築。館内へ足を踏み入れる前から、上質な日本建築の空気が漂います。
手入れの行き届いた日本庭園が、和の落ち着きを感じさせます。立派な古木や季節の花々を眺めていると、自然と心が落ち着いてくるようです。
温泉
日本一の総檜風呂「千人風呂」
館内に入り、さっそく温泉へ向かいます。「金谷旅館」には、男湯の「千人風呂」、女湯の「万葉の湯」、貸切風呂の「一銭湯(いっせんゆ)」の3つの浴場があります。
名物の「千人風呂」は男湯ですが、女性も女湯から行き来でき、バスタオルを着用して入浴できる混浴風呂となっています。
「千人風呂」は大正4(1915)年に建てられた、100年以上の歴史を持つ総檜造りの大浴場。幅約5メートル、奥行き約15メートルという大きさに圧倒されます。
温泉は源泉かけ流しで、金谷山の麓に湧く2つの自家源泉から、24時間絶えず新鮮なお湯が注がれています。源泉の温度は約49.8度と約36.2度。加温は行わず、2つの源泉を組み合わせながら、心地よい湯加減に整えています。
広い湯船は場所によって湯加減が異なり、湯口の近くは熱め、離れるにつれて少しずつぬるめになります。さらに、ゆっくり長湯を楽しみたい人向けに、ぬる湯のエリアも設けられています。
泉質は低張性・弱アルカリ性・高温泉の単純温泉。無色透明でやわらかな肌あたりのお湯は湯疲れしにくく、何度でも入りたくなる心地よさがあります。
宿泊者はチェックイン後からチェックアウトまで、館内の湯を心ゆくまで満喫できます。日帰り入浴も可能で、利用は9:00〜22:00(最終受付21:00)までの2時間制です。
「千人風呂」の湯船の中にはブロンズ像が飾られており、これは伊東市を拠点に活動した彫刻家・重岡建治さんの作品です。“触れる彫刻”を手がけたことで知られる重岡さんの作品が、浴場に彩りを添えています。
木造建築美に浸る、女湯「万葉の湯」
「万葉の湯」は女性専用。こちらも木造の女湯としては国内最大級の広さを誇り、美しい木組みに囲まれながら、のびのびと温泉に浸かれます。
浴場内の一部は半円構造になっており、木造とは思えない美しい曲線が目を引きます。こうした造形を実現できるのは、当時の職人たちの高い技術があってこそ。
ふと目線を上げると、天井には湯気を逃がすための窓が。力強い梁とともに、美しい木造建築ならではの意匠が広がります。温泉に浸かりながら伝統建築が織りなす美しさに触れられるのも、「金谷旅館」の醍醐味です。
木造建築を守り続けるには、日々の丁寧な手入れが欠かせません。地元の職人たちの技によって支えられ、伝統ある空間が今も大切に受け継がれています。
女性が「千人風呂」を利用する際は、女湯「万葉の湯」の脱衣所から専用の扉を通って向かいます。
扉はオートロック式になっているため、鍵を持って移動する仕組みです。「千人風呂」は基本的に男湯のため、女性はバスタオルを着用して入浴できます。
「千人風呂」と「万葉の湯」には、それぞれ露天風呂も備わっています。里山の澄んだ空気に包まれながら、源泉かけ流しの湯を味わえるほか、ほどよい刺激の打たせ湯も用意されています。
温泉を満喫した後は、館内の湯上がり処「松風」へ。禅の世界を思わせる円窓が印象的な和室には、静かで落ち着いた空気が流れています。
歴史ある湯を独り占め。貸切風呂「一銭湯」
貸切風呂「一銭湯」は、宿泊者だけが利用できる特別な湯処。浴場は2つあり、空いていれば自由に利用できます。予約制ではないため、好きなタイミングで気軽に入れるのもうれしいポイントです。
「一銭湯」という名前は、かつて一銭箱に「一銭」を入れて利用していたことに由来しています。
明治末期に造られた、「金谷旅館」でもっとも古い浴場で、「千人風呂」より前から親しまれてきた湯処です。現在の建物は改修されていますが、一部には当時の面影も残されており、どこか懐かしい雰囲気の中で静かに湯浴みを満喫できます。
客室
昭和の面影を今に伝える、本館客室「松」
客室は全15室。その中でも、本館にある「松」は、昭和4(1929)年から受け継がれてきた風格あるお部屋です。天井には秋田県産の神代杉、柱には天城産の杉の巨木から切り出した四方柾目材(しほうまさめざい)が使われており、木の美しさと職人の技を感じられます。
間取りは8畳+6畳で、定員は6名。落ち着いた和の空間で、時を重ねた木造建築の魅力をゆっくり味わえます。トイレは共同利用です。
「松」は本館2階の角部屋に位置しているため、広々とした広縁からやわらかな光が差し込み、開放感のある造りになっています。窓の先には庭園を望み、高い位置からの眺めは格別です。
館内の至る所には、昭和の面影を感じさせるしつらえが今も残されています。客室に置かれた黒電話も現役で、ダイヤルの「9」を回せばフロントにつながるという、どこか懐かしい体験も「金谷旅館」ならではです。
庭園と下田富士を望む、客室「皐月」
「皐月」は、昭和31(1956)年築の建物1階にある客室です。広縁の先には日本庭園が広がり、落ち着いた景色を眺めながら思い思いの時間を過ごせます。間取りは8畳+6畳で、トイレと洗面所を備えています。
温泉で身体が温まった後は、手入れの行き届いた庭園を眺めながら、ゆったりと涼む時間も至福です。遠くには、「下田富士」と呼ばれる美しい三角形の山の姿も望めます。
本館には風情ある廊下や階段が残されており、館内を歩けば、ゆらりと景色が揺れて見える昔ながらのガラスや女将が手がけた絵画なども、随所で目に入ります。
日本一の総檜風呂で、源泉かけ流しの湯を堪能できる「千人風呂 金谷旅館」。宿泊することで、木の香り漂う館内と、静かに湧き続ける温泉を心ゆくまで堪能できます。
なかでも、好きなタイミングで「千人風呂」や「万葉の湯」に浸かれるのは、宿泊者だけのぜいたく。情緒あふれる温泉旅館で、時を忘れるようなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
千人風呂 金谷旅館
- 住所
- 静岡県下田市河内114-2
- アクセス
- 伊豆急「蓮台寺」駅より徒歩約3分
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 10:00
- 客室数
- 15室
- 駐車場
- あり/40台(無料※予約不要)
取材・撮影・文/小浜みゆ
